オルガニスト楽屋話

第3話 背中を向けての演奏---1997.3.20.


コンサートホールでは、オルガニストはほとんど背中を向けて演奏します。よく<顔が見えない>と言われます。私は顔を見せなくて良かったと思っているのですが、後ろの客席の様子、雰囲気は不思議なもので、充分伝わってきます。
私はオーケストラと演奏する機会も多いのですが、指揮者は鏡やモニターカメラで見ています。けれども背中を向けているオルガニストに棒を振るのは、怖いのではと想像してしまいますし、中には目と目が見えなければ、と言う指揮者もいます。私にとっても、オーケストラとの音量のバランス、そして他の奏者の音が近くに聞こえ、また動きがわかった方がアンサンブルしやすいので、ステージの上にリモートコンソールがあることが理想です。

リモートコンソールが無い場合は、鏡やモニターを頼るしかありませんが、その場合は、私は指揮者とコンサートマスターが映るように、セットを頼みます。何度も弾いているホールでは、私が弾く日にはそのようにセットして下さっています。それからカメラは、出来るだけオルガニストの近くに−−あるホールでは、オルガンの一番上、つまり天井近くにカメラがセットされ、指揮者の頭は良く見えましたが、棒の動きが上から覗くようで、とても見にくかったことがあります。夏のあるコンサートで、指揮者が本番に白い上着で登場してきました。モニターカメラでは、体の前で振られる白い棒は見えず、とても怖い思いをしました。一度は、鏡が突然、落ちたこともありました。

背中向きの色々な怖い経験から、演奏会前のセッティングにも、細かな注意が払われます。

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