オルガニスト楽屋話

第7話 東京芸術劇場パイプオルガン、地震に弱く倒壊の恐れ---1997.6.12.


これは先日の読売新聞の記事の見出しです。東京芸術劇場パイプオルガンは、 ご存知の方もいられるかもしれませんが、フランスのガルニエ氏の設計で、ルネッサンス・ バロックスタイルとモダンスタイルのオルガンが背中合わせに立っていて、 演奏曲目によって弾き分けることが出来るようにつくられた<回転するオルガン>です。 この構造上、そしてオルガンが建物の8階部分にあるため、大きな地震に弱く、 パイプや本体がステージの上まで倒れてくる恐れがあると都教委の調査でわかったとのこと でした。昨日もこのホールで演奏してまいりましたが、全ての楽屋に、オルガンが倒れる ような地震が起こった場合の避難の方法が指示されておりました。しかし阪神大震災で完全に崩壊し、 ステージの上まで倒れ落ちたオルガンの写真を鮮明に思い出し、もしも演奏会中に起こったら、 オルガニストはじめオーケストラの団員が本当に避難することが出来るのかと、恐怖にかられます。 実際に地震を経験した人たちの話しでは、とてもそのような余裕はないだろうとのことですが。


このオルガンは完成して5年になりますが、実に<演奏家泣かせ>です。 これほどトラブルの多い楽器は日本中に無いと思います。コンサートホールでの演奏会は、 制約され限られた時間の中で、リハーサルを行い、本番を迎える訳なのですから、 楽器のトラブルは最小限であって欲しいものです。
このオルガンを使っての一番始めのコンサートは私が演奏しました。オーケストラと モダン面を使っての演奏でしたが、その鍵盤の重いこと、カプラーを使って鍵盤をつなぐと、 演奏不可能なほど重く、肩や腰を痛めたものでした。さすがに数年後、そのことは改良され 電気式のカプラーとなりました。


その後これまでの5年間、私は月に平均2、3回はここで演奏してきました。 ソロリサイタルは10回ぐらい、そのほかオーケストラとはプーランクやヘンデルの 協奏曲はじめ、サンサーンスなどの共演多数、エンパイヤブラスはじめ金管楽器との コンサートなど。 しかし、その大半が楽器の不調を気にかけながら、何とか(!)毎回こなしてきたという状況でした。
何度かここで他のオルガニストのコンサートも聴きに行きましたが、楽器の不調のために 中断した演奏会が、私の聴いた中でも3回ありました。楽器のために演奏をストップさせられてしまうとは、 ほかの楽器では考えられないことではないでしょうか。 ましてやオーケストラとの演奏でしたら、指揮者の棒を止める訳にはいきません。


昨年以来、演奏補助装置でありますコンビネーションという装置が不調、ここ1ヶ月前からは、 この装置を使わないで演奏するようにと、ホールから指示が来ました。<手動で>とのことで、 昨日は2人の助手をつけてやむなく演奏しました。今の状況では、これまでのようにオーケストラとの 共演などは、非常に難しい状態です。オルガンは調子が悪くなって1年も経っていますのに、 そのままにしているオルガン製作者の無責任さ、オルガンはこわれていないと主張するホール側、 耐震対策はもちろんのこと、都民の税金4億円をかけて購入した楽器なのですから、 一日も早く使える楽器にしていただきたいものです。


耐震対策については、その後(昨年夏)オルガン上部を天井に固定する工事が行われました。 ---1998.6.2.

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