オルガニスト楽屋話

第9話<演奏会のファイル>---1997.9.5.


演奏会が終わり、我が家へ戻り、時にはいただいた花束を花瓶に生け、 そしてまず決まってすることは、その日のプログラムの整理です。 <演奏会記録のファイル>があり、その中に入れます。 左側のページにはチラシを、そして右側のページにはプログラムを。
たった2ページに収められてしまうのですが、実際にはそのページに 入りきらない程たくさんの、その演奏に向けての準備や、演奏会当日の 緊張や興奮、そして聴衆からいただいた暖かい拍手があります。けれども ひとつのコンサートが終わる度にこうしてファイルにしまい、ホッと 一息つくのです。小さな演奏会から、大ホールでのソロリサイタルまで、 ひとつの演奏会も欠かすことなく。

1冊目は、ドイツから帰国前のドイツやフランスでのコンサートで 始まっています。それぞれのファイルはとても分厚くなっているのですが、 今ではそのファイルも11冊目。
帰国して10年、その間には様々な演奏の機会が与えられ、そのひとつひとつに 色々な思い出があります。 沢山のオルガンと、また多くの素晴らしい音楽家との出会いがありました。 忘れられない、楽しい演奏旅行も沢山経験しました。 それぞれの演奏会に足を運んで下さいました聴衆、そして演奏会を 企画して下さった方々、それぞれの地で嬉しい新しい出会いもありました。 演奏会当日、病気にかかり無理押しで出演したコンサート、演奏会前日 オルガンが故障し、どうやって翌日の本番に臨もうかと不安で眠れなかった −−こんなこともありました。

演奏、そしてその日の会場の様子は残念ながら、その瞬間に消えていって しまい、留めておくことは出来ないのですが、このファイルを振り返ると、 それぞれの演奏会がよみがえってくるのです。

今はひとつのコンサートを終えると、次のコンサートと、スケジュールに 追われる毎日で、過去のことなど振り返っている時間も無いのですが、 いつの日か私も静かな時間が持てるようになった時、ひとつひとつのページを ゆっくりと開き、もう一度嬉しい余韻に浸ってみたいと思うのです。

Index