オルガニスト楽屋話

第105話  『世界オルガン夢紀行』シリーズ始まる ---2009.8.28.

川口リリアホールでの『世界オルガン夢紀行』は、5回シリーズでヨーロッパ各地を、オルガンをめぐる旅でご案内する企画ですが、 その第1回目は「スペイン、ポルトガル、イタリア編」から始まりました。

ヨーロッパ諸国内で、ほかの国々より約1世紀早く黄金時代を迎えたのがこの地域です。 情熱的で明るく陽気な国民性、暑い夏の季節にもぴったりと思い、このイベリア半島の国々からスタートです。

旅が好きな私、各地を歩き撮影したたくさんの写真の中から厳選したものを、ステージの上のスクリーンに映し出し、 解説をしながらお話しにまつわる作品を演奏するという企画です。オルガンは「音を奏でる美術品」、視覚的にも大変美しいです。 特にスペイン、ポルトガルは16世紀ごろ経済的にも豊かな強国であり、大きく立派で贅を尽くした楽器が建造されました。 オルガンの写真が中心ですが、教会などの歴史的な建造物、風景、今回はシチリア島の青い海の写真などもご覧いただきました。

カバニレス、ブルーナ、フレスコバルディといった普段コンサートホールではあまり弾かれない作品、 また耳馴染みのない作品も、写真をご覧いただきながらその作品の生まれた背景やその地域のオルガンの特徴などのお話しで、 より近くへとご案内できたのではないかと思います。

しかし、演奏とお話は頭の違う部分を使いますね。右脳と左脳、の話を聞いたことがありますが、優勢に働いている、 活動している部分を一時休止させ、別の脳を起動させる。両方の脳を交互に動かすことになるのでしょうか。 演奏しながら、あのこと言い忘れた〜と思い出したり、次は何のお話だったかな、、と考えたりすると演奏に集中できなくなります。 頭を切り替えて、演奏に集中する!・・これが難しいです。

そういうこともあり、またしっかりとした台本もないので、ホールのスタッフの方が操作してくださるとおしゃってくださったのですが、 パソコンを演奏台の横に置き、流れの中て自分で写真を送りながらお話を進めることにしました。

写真の編集に協力してくれたのはこうした作業に卓越している私のお弟子さん、ありがたいものです。 前日のリハーサルで照明やスポットライトも関係することはわかり、そちらの調整はしっかり完了です。 でも実際にスクリーンに映る画像がまだ若干鮮明さに欠ける、、、 リハーサルを終え夕刻帰宅途中、これで終わらせるのは残念、少しでも改善できないものかなという思いにかられました。 自宅に戻り、再度解像度の大きい元の写真を引っ張り出し、2台のパソコンをいったりきたりしながら、 フォットショップで補正を加え、色調を濃く、よりクリアにする作業が始まることに。結局完成したのは深夜〜。 翌日、最終版のCDを持参し、新しくした写真がきちんと映るか再チェック、本番間際、ぎりぎりセーフ。

講師の先生とオルガニストの二人で解説と演奏を役割分担する企画はよくあり、私も演奏していますが、今回は私一人で。 演奏、お話、画像送りの3役を、いやアシスタントなしで演奏する私は一人4役とも?でも気づいてみたら、、 旅、写真、オルガン、パソコン、、、私の “好きなことの集まり”になっていました(笑)。 私の全て・・仕事と趣味がここに結集したということでしょうか。

初めての試み、いろいろ勉強、経験させていただきながら進めた初回でしたが、会場いっぱいのお客様にお聴きいただき、 無事初回を終了することができました。ご来場くださった皆様、どうもありがとうございました。そして協力して くださったリリアホールのスタッフにも心より感謝致します。最後のアンコール、モリコーネの「ガブリエルのオーボエ」を弾き、 暑い日の教会での練習、夏も終わりだな、良い夏だった、ありがとう、晩夏に思いを寄せながら会を閉じました。



お聴きいただいた方からこんな暖かいお言葉をお寄せいただきました。その一部紹介させていただきます。

「素敵な時間をありがとうございます。写真とお話しとまたいつもと違った趣で楽しかったです。 一人3役だったと思いますが、作曲された時代や場所をお話しや写真からイメージしながら聴いていました。 そうすると自分がドームにいるようで、まさに夢紀行でした。また楽しみにしています」

「すっかり旅気分。あんなにオルガンに国民性が表れているとは・・・やっぱり人間の文化ってすごいなと思いました。」

「世界オルガン夢紀行は、映像と井上さんの体験に基づく感動が伝わってくるお話で、とってもとっても楽しく過ごせました。 お話の通り、オルガン音楽の素晴らしさだけでなく、 一つ一つのオルガンの美術品、芸術品としての奥深さに改めて感動いたしました。あんなにたくさんの教会を訪れ、 しかもプロ顔負けの写真の数々、井上さんの演奏にはこれだけ深い研究の基盤があったのですね。演奏曲目も、いつもと全く雰囲気の違う演奏で、 スペイン、ポルトガル、イタリアの特色がよく分かりました。モリコーネ:「ニュー・シネマ・パラダイス」よりが素晴らしく気に入りました。 オルガンでもこんなに表情豊かな演奏ができるとはびっくりしました。本当にステキな演奏会をありがとうございました。」

「素晴らしい写真と一緒に見事でした。国めぐりのクラシックやポピュラーの演奏、そしてベースにキリストと教会。満喫しました。」

「国によってずいぶん形態もちがうのだと初めて知りました。できれば聞き比べの贅沢な妄想もさせて頂きました。 演奏と解説、すばらしい企画だと思います。ドイツ編是非拝聴にと考えております。」


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