オルガニスト楽屋話

第111話  夏色に誘われて ---2010.5.29.

美しい新緑、明るい太陽、ヨーロッパの夏にも似たこの季節、私は大好きです。オルガンの練習も快適に。それにしても 毎日うんざりする程の大量の迷惑メールが来ます。朝起きると200通〜300通、もっと多いことも。(どなたか、解決法を ご存知の方、教えてください)。 ものすごいスピードでどんどん削除キーを押すのですが、 「Concert」という件名のメールが、、、一体 何だろうと思い開いてみると、ポーランドからで、クラコフでの音楽祭へのお招きでした。 15年前に演奏したことがあるのですが、その演奏を覚えていてくださり、私のサイトを見つけてメールをくださったというのです。 早朝、寝ぼけ眼の私はもう一度目をばっちり開き、パソコン画面を再確認。現実だ! クラコフ、そしてクラコフから100キロ程の街ノヴィ・ソンチで演奏会、日程の候補日がいくつか書かれていました。

快諾の返信の後、メールのやりとりで話は進行していたのですが、ポーランド大統領夫妻など政府の 要人97名が乗った政府専用機が墜落するという、信じられないような惨事が起きました。 その日以来、ぴったりと連絡がとだえ、返事のメールが全く来なくなったのです。 どうしたのだろう。

約1ヶ月後、不安になっていた私に、、、ようやくメールが。 「演奏会の開かれる教会に、カチンスキ大統領夫妻が埋葬された」というのです。 ポーランドの国王はじめ歴史に残るような重要な人物、音楽家ではシマノフスキが眠る教会 Bazylika 00. Paulinow "Na Skalce"だそうで、全国民が悲しみに包まれているというニュースも流れていましたし、それを知った私は、 大あわてて用意したプログラムを変更することに。ポーランドの古都クラコフの由緒ある教会での 演奏会ということを知りました。

目下、演奏の準備、そしてヴィザ取得に動いています。 ポーランド大使館にも行きました。招聘者の直筆サイン入りのポーランド語の招待状2通、保険、全て書類はOKと、 しかし「ほかの写真、お持ちでないですか?」、、写真はNGに〜〜、手持ちの写真はたくさんあるのですが、真正面向きの 写真というのは1枚もなく、初めてあの自動販売機のような写真撮り機械に入ることに。 それにしてもポーランド語は難しいですね。例えば「Nowy Sacz 」(今度演奏する街です、正式には アクサン記号のような特殊文字です)これをノヴィ・ソンチと読むのですが、 スペルと音がなかなか一致しない、、、 これはロシア語の影響のようです。そういうわけで来月、15年ぶりにポーランドへ演奏旅行にまいります。

一昨日、川口リリアホールでの『世界オルガン夢紀行』、第3回目のスイス、オーストリア編も何とか無事終了。 モーツァルト、ハイドン、ブルックナー、作曲家たちとオルガンとの関わり・・・ モーツァルトは父レオポルト・モーツァルトと演奏旅行に出かけ、世界各地でオルガン演奏をしましたし、 ザルツブルク時代には宮廷オルガニストのポストにも就きました。 晩年、オペラ『魔笛』の作曲している頃、生活に困り、自動オルガンのために作品を書いたのですが、 オルガン用の作品を越えるような音楽、神童、若きモーツァルトにはなかった音楽の深みがそこにはあります。 ブルックナーも大きな交響曲を残していますが、子供の頃からいつも聴いて育ったザンクト・フローリアンのオルガンの響きが 音楽の発想の源であり、心の故郷であるそのオルガンの下に埋葬して欲しいと遺言を残した・・・このような作曲家のオルガンへの 思い入れを知ると、さらに作品にも近づけた感じがしました。 楽譜を追うだけでなく、本を読んで作曲家や作品の生まれた背景調べ、縁のオルガンや風景、映像の準備をし ていると、自分もその世界に身を置いているような、あたかもオーストリアやスイスで弾いているような気持ちにもなれました。 もちろん演奏会のため、聴きに いらしてくださるお客様のためですが、私にとっても毎回が貴重な勉強の機会になっています。
(左の写真は川口リリアホールで本番の後に。オルガン、そしてステージの上には 映像を映した大きなスクリーンの画面)

「オーストリアのオルガン」ドイツ語の分厚い本、留学中にフライブルクの本屋さんで購入した ものでした。「ヨーロッパのオルガン」「ドイツのオルガン」・・こうした書籍は重いし、 スーツケースに入るか〜、持ち帰ろうか迷うのですが、購入しておき良かったです。 そのほか、教会や修道院を訪ねた時に購入した絵葉書、オルガンの本など、こんなに 役立つ日がおとずれるは思ってもいませんでした。各地を旅し歩いたことも、全て意味がありました。

夏色の太陽、リハーサルの帰りにふらっと立ち寄ったお気に入りのアルマーニのお店で、 鮮やかなブルーのブラウスが目に飛び込んできました。これだ!スイスの爽やかな空にも似たブルー。 準備していた色、あれは冬色だわ。これを着よう!

そして今日は、私がオルガニストを務める大森めぐみ教会のバザー、多くの人が集まる日に お弟子さんで芸大3年生の龍田優美子さんの演奏、私の映像&お話で演奏会を。 若々しくフレッシュでいて品格がありしっかりとした演奏、これからの活躍が楽しみです。 終演後、大人から子供さんまでたくさんの方がオルガンの周りに集まってきました。 5月の爽やかな風、夏色の風に乗って、明るいオルガンの音色が響くのでした。
(左の写真は大森めぐみ教会のオルガンの前で、コンサートの後に、演奏者の龍田優美子さんと)


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