オルガニスト楽屋話

第124話  春が来た ---2011.4.29.

桜が咲き、新緑の美しい季節に。大震災に見舞われ悲しみや不安の多い日本だが、今年も変わりなく春はやって来た。 コンサートの中止、来日演奏家のキャンセル、ホールの閉館など、私達音楽家の周りにも思わぬ事態が飛び込む日々が続いた。 恩師S先生からも「来日出来なくなった」とドイツから電話も。川口リリアホールでかなり前から計画されていた スイスから技師を招いてのオーバーホールも危ぶまれたり、、放射能への不安、余震も続き、 気持ちの中でも落ち着くことの出来ない日々だった。 その後、スイスのクーン社の技師は来日するとのこと、予定通りオーバーホールと新しいシステム(演奏補助装置)の増設が なされ、そのお披露目のコンサートも7月15日に予定通り開催されるという連絡が入った。 稼働率の高いホールの公演予定を1ヶ月半入れずに捻出した時間、そして市からの貴重な予算でもある 、、、ほっと胸をなでおろす。 宮城県のオルガン講座の生徒さん方からも、ライフラインが整い少しずつ落ち着き、復興に向けての前向きなお便りが 届くようになった、良かった。

何かと落ち着かない中、私は電力の許す限り(現代のオルガンは電気の力なしでは音が出ない、、、) オルガンに向かい、コンサートの準備を進めている。 秋までのコンサート、今年はいろんなオルガンを弾かなくてはならない。夏の清里では、1段鍵盤のバロック様式の小さなオルガン、 そして教会の2段鍵盤のフレンチ・バロック・オルガン、コンサートホールのネオ・バロックの3段鍵盤の大きな楽器、 ポーランドでは大きなロマン派様式の大オルガン、、どれも“オルガン”だが、 様式も、規模も、様々で同じオルガンと言っても幅が広い。そしてそれぞれの楽器に合ったプログラムを 考えなくてはいけない。我が家の楽譜棚はだいたい右から左へと年代順に楽譜は並んでいるのだが、 プログラムを決める時には、まずはこの曲はどうかな、と思う楽譜をかたはし出していく。部屋の中は楽譜がどんどん散乱していく。 そして譜面を見たり、試奏したり(電子オルガンです、、)しながら、これは弾ける(楽器に合う)曲、これは弾きたい曲、 これはふさわしくない、弾けない曲、、と分けていく。楽譜で足の踏み場もない状態に〜。 そして全体の流れを考える。トークの入るコンサート、入らないコンサート、などと実際のステージをイメージしながら。 毎回のプログラミングはこうして決まっている。 またタッチ、笛の鳴らし方、息遣い、、演奏も楽器に合わせなければならない。 持ち歩きの出来ない、いつも違う楽器で演奏しなければならない私達オルガニストの 宿命だが、大変だ。

目下、私がオルガニストを務めさせていただている大森めぐみ教会での41周年記念コンサートに向けて準備中♪。 日頃、よく弾いている楽器なので、一番美しく奏でたいし、また皆様方にもぜひこの私の愛すべきオルガンの美しさを聴いていただきたいと。 教会の大きく立派な桜も満開(左上の写真)、イースター(復活祭)の日曜日には、 「失望も希望に変わる」イエスが復活されたというメッセージを聞き、 被災された方のために祈りを捧げた。

右の写真は我が家のリビングから見る桜。毎年少しずつ大きくなり、多摩川が見えないほどに。 立派な絵などはないけれど、窓いっぱいに広がる四季折々の自然は、練習の合間や疲れている時に 心和ませてくれる。何事もなかったかのように、今年も変わりなく花を咲かせ、 見る者に元気や勇気を与えてくれた。

新学期を迎えた神戸女学院大学、キャンパス内も春いっぱい。キラキラ目を輝かせ意欲満々の8名の副専攻の学生と、今年度もスタート。 偶然にも、飛行機の機内のクラシック番組でマーラーの『復活』最終楽章が流れていた。 オーケストラにコーラスが加わり力強く歌われ、 最後のクライマックスにはオルガンも加わる。「復活」・・まさに今復興に向かっている東北、 日本に力を与えてくれる音楽であり、震災後の初出勤の機内で音楽から力と勇気を与えてもらった。音楽の力は素晴らしい!!

今回のメッセージ、被災された方々へのお見舞いと 一日も早い復興をお祈りしつつ、私の周りの身近な“春”をお伝えしました。


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