オルガニスト楽屋話

第126話  新たなる旅立ち〜川口リリアホール ---2011.6.30.

“リリア”の名で親しまれています川口リリア音楽ホールは、開館20周年を機に、 スイスのクーン社から4名の技術者を迎えて、約5週間かけての大規模なオーバーホールと演奏補助装置の増設を行ないました。 作業の合間にお邪魔させていただき、オーバーホールの過程、また 普段見ることが出来ないオルガンの内部を見せていただきました。

全てのパイプ(3.200本を越える)をはずし、20年の間に積もった埃を取り除き、微妙な音程のずれを調整。 皮やフエルトなどの消耗した部分は取り替えられます、これは多くの方に演奏していただいた証ですね、とクーンの方も喜んでいらっしゃいました。 綺麗に整えられたパイプを再び元の位置に戻し、丁寧に整音、調律。 新しいコンピューターが取り付けられ、 メモリーシステム(記憶装置=演奏者があらかじめ決めた音色を記憶させる装置)が増設されました。このようなお話をしますと、 コンピューター?!、メモリーシステム?!・・と驚かれる方もいらっしゃるかと思いますが、 オルガン本体は何百年も変わらない手法で製作されているマイスターヴェルク。しかしながら、ストップ(音色を 選ぶ装置)を動かすなど演奏を助ける装置には日進月歩の新しいシステムが用いられています。これまで 「128メモリー」だったリリアのオルガンは、新しく増設されたシステムにより「15,000メモリー」まで可能に。 会場のお客様に聴こえてくる音には変化はありませんが、ロマン派の大曲を弾く時、また 多くのオルガニストが限られた短いリハーサル時間で演奏するコンサートホールでは、大変ありがたい 装置です。

ホールに入ると、ステージ上は作業のお仕事場でした。 (写真はホールのスタッフの方が撮影された ものを一部お借りしました。)



ステージ上にはオルガンへの足場が組まれ、パイプや工具でいっぱいに。
クーンの技術者Joerg Maurerさん、私、西岡さん、Pierre Barreさん。


はずされたパイプは、ストップ毎に整然とステージの上に並ぶ。
木製のパイプ。これはペダルの低音(Subbass16')。


手鍵盤と足鍵盤もはずされた演奏台。
よく使われた手鍵盤も修復。左上の黒い部分が鍵盤。


皮の張替え(ペダルのBombarde)、職人芸です。
オルガン内の3階部分まで登る。オルガン内部から見る客席。


新しく増設されたメモリーシステム(ドイツ製)。
パイプを元の位置に戻し、整音、調律。


オルガンの寿命は、人の命よりずっとずっと長いです。 ヨーロッパには16世紀、17世紀に製作された歴史的な楽器が残っていますが、修復を重ね大切に保存され、現在もなお名器として 荘厳に響き続けています。修復は、美しい音色を時代を超えて受け継いでいく大切な作業なのです。 20年の歳月、ホールの顔として大活躍し、多くの人を楽しませてくれたリリアのオルガンが、たった今、リニューアルされ また新しい歴史を刻み始めました。

オルガンのお披露目ソロ・コンサートが、 来たる7月15日(金)に開催されますが、増設された新しい機能を用い、リリアのオルガンの魅力を存分に聴いていただきたいと、 私の大好きな曲から選曲しての“リリア・スペシャル・プログラム”を準備しています。 また『世界オルガン夢紀行』、 『プロムナード・コンサート』はじめ、これからも皆様方に楽しんでいただけるような企画のオルガン演奏会が続きます。 オルガンばかりでなく、ホールのエントランスの絨毯、壁、楽屋も大規模な修繕がなされていました。 どうぞ新しく綺麗に生まれ変わったリリアホールへお出かけください♪、新装されましたホールとオルガン、 これからも益々素敵な音楽をお届けする芸術発信の場になり、親しまれていくことでしょう。 皆様方のご来場をお待ちしています。


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