オルガニスト楽屋話

第130話  ボヘミアへの旅〜オルガン事情 ---2011.9.5.

無事帰国はしたものの、帰宅するなり旅先でずっと持ち歩いていたパソコンi Bookの動きが突然おかしい〜。 今回の旅、WiHi、そしてGoogleやGoogle Mapのお陰で、現地で様々な情報を得ることが出来た。 下調べなどする時間もなく出かけた私には大変ありがたかったし、日本との連絡もこのi Book、 命綱であり大活躍してくれた私の相棒が突然息絶え絶えに、、。慌てて写真、コンサートで使うパワー・ポイントの 資料など重要なデータのバックアップを取る。帰国するなりバタバタ状態。

その後、ヴロツワフで知り合いになったオランダのオルガニスト、フレッドからも写真が届き(左右の写真です)、旅先で出会った 暖かい人々のことを思い出しながら、少しずつ元の日本の生活ペースに。

さて、旅の話の続きですが、ヴラツワフからプラハへ列車で行くことに。事前にチケットを買って おこうと中央駅へ。ポーランド語の表記しかないが、どうやらローカル(国内)とインターナショナル (国際)に分かれていることに気付き、インターナショナルのチケットの購入窓口に並ぶ。 販売はゆっくりテンポ、まあこれはヨーロッパの街どこでもあること、しかし特に数人前のおじさんに ひどく長い時間がかかり、ひとつしかない窓口に 並ぶ人の列は長蛇に。流石に周りの人もやきもき。とその瞬間、窓口がぴたりと閉じられてしまった。 窓口に置かれた立て札には、「休憩。30分カウンターは閉まります」と書かれていた(しばらくたってから わかったのだが)。ポーランド語のみの表示、その上ひとつしかない切符売り場に休憩時間があるとは、、驚いた。

こうしてゲットしたチケットでヴロツラフからプラハへ列車で6時間、大した距離ではないのだが、時間はかかる。 ドレスデン経由、ポーランドからドイツを通りチェコへ。 夜8時過ぎ、ようやくプラハの駅に降り立った。17年前にここプラハで演奏した。懐かしい街だが、 駅は全く様変わりし、近代的な駅になっていた。大体の地理感はあった、ホテルまで歩いても10分と近いのだが、 大きなスーツケースがあるのでタクシー乗り場へ。すると怪しげなタクシードライバー達が待ち受けていて、 近寄って来た。ホテルの名を告げると、法外に高額な値段を言う。こんなタクシーには乗れない!と、 駅の反対側のもうひとつのタクシー乗り場まで行くが、全く同じ状況だ。石畳の夜道、、、困った〜、 金額よりもこうして人を騙す気持ちが嫌だ。一旦は歩こうかとも思ったが、インフォメーションへ入ると 困っていた私を察したのか、電話でタクシーを呼んでくれた、これも初めての経験。 後になって観光案内書を見ると「プラハの悪質タクシーには気をつけるように」と3箇所に記載されていた。

さてプラハの街は17年前から大きく変貌していた。民主化、歴史的な建物が綺麗に修復され保存されている一方、 近代的な建物も建ち、どの街にもあるようなヨーロッパ資本のお店も出てきた。ヨーロッパの普通の一都市となっ てしまった感はあるけれど、やはり街の中は歴史的な建築物がいっぱい。プラハを拠点に8日間過ごした。 途中プラハから東へ60キロ、電車で1時間ほどのところにあるクトナー・ホラという街にも出かけた。 ここは14世紀末にはボヘミア王の居住地だったそうだが、銀が生産され当時チェコで最も裕福な町であり、 1500年頃はプラハと並び教会音楽の中心地であったそうだ。世界遺産にも登録され、なるほど、 立派な大聖堂そしてオルガンがあった(左の写真)。

ボヘミア地方は、30年戦争(1618〜1648年)の後、1650年から1850年頃、教会建築の興隆期となり、 各地に立派な教会、そしてオルガンが建造されたそうだ。そのボヘミア王国の首都がプラハであり、 当時、文化、芸術の中心地だった。確かに豪華絢爛なバロック建築、堂々と聳えるゴシック建築の 立派な教会が随所にあり、またオルガンも設置されていた。他のヨーロッパ諸国に劣らない立派な楽器で、 歴史的なオルガンも残っている。ケースは当時のまま保存され、オルガン本体は長年の年月の間に修復、 必ずしも良い状態で修復されたとは限らないような楽器も多いが、それは経済的な事情からであろう。 しかしながらドイツのオルガンビルダーによって製作された楽器もあり、当時、オルガンには東と西、 共産主義と資本主義といった壁はなく、文化的には1つであり、繋がりがあったことも現地に行きよくわかった。

ボヘミアのオルガン音楽は独自の音楽として発展した。イタリアや南ドイツの影響を受けた様式で、 バッハやウイーン古典派の影響も垣間見れる「ボヘミア楽派」と呼ばれる楽派だった。チェルノホルスキー、 ブリクシ、ゼゲル、、などの作曲家だ。

プラハでの最終日は日曜日だった。ティーン教会とその裏手に僅か歩いて2,3分の所にあるSt.James Basilika教会、この2つの教会のミサに出席、厳粛なミサの中でオルガンの音が力強く高らかに響いていた。 戦争や民主化、数百年の様々な歴史を超えてきた歴史の重みのある会堂の中で、美しく響き渡るオルガンの音色を聴き、 感慨深く旅は終わりに。

来る9月22日は川口リリアホールでの 『世界オルガン夢紀行・東欧編』では、ボヘミア地方のオルガンの写真など、 今回の旅で得た最新レポートをお伝えしながら、ボヘミアのオルガン音楽はじめ東欧の民族色豊かな音楽を演奏します。 ご来場いただければ幸いです。

写真のページもあわせてご覧ください。)


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