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オルガニスト楽屋話
第156話 NHK『ニューイヤーオペラコンサート』 ---2013.1.4.
11月の終わりのある晩遅く、携帯電話からの電話。もの凄く騒がしい所から慌てた様子で
「NHKの○○です」・・一瞬、間違い電話かと思った私。
返答に困っていると、「井上さんですか、井上圭子さんのお宅ですか?」・・「はい」。
「お正月の『ニューイヤーオペラコンサート』にご出演いただけないかと思いまして」。スケジュールの
問い合わせでした。毎年見ている番組で、オペラ歌手の華やかな祭典です。オケ中では以前にも出演したことがあるのですが、
「オルガン独奏でご出演いただきたいのですが。時間は6分20秒位です。来年生誕200年を迎える
ヴェルディとワーグナーなど弾いていただけませんか」。ふ〜む、、大分前に録音したCD『オペラ・ファンタジー』が頭をよぎる、、
かなり以前のこと、めちゃくちゃに忙しかったあの頃、正直、何を録音したかも記憶から遠くなっていました。
電話をかけてくださった演出家の方は、NHKの資料室で私のCDを聴いて、お声をかけてくださったようなのです。
とりあえずスケジュールは大丈夫とお返事し、内容に関してはまた後日、、と。
携帯電話の番号をお伝えしようとすると、すでにご存知だと。NHKのデータ管理は凄いです。
その後、ワーグナーとヴェルディを入れメドレーに出来ないか、曲目の候補があがり、
ワーグナーは『マイスタージンガー』か『ローエングリン』、、などとメールと電話で頻繁に相談がなされた後、
こんなメドレーでいかがでしょうか、と音源がメールで送られてきました。
折しも、金沢でプーランクのコンチェルトを弾く前の夜11時、そろそろ眠ろうかなと最後のメールチェックをしたところ
でしたが、眠れなくなりました。聴いてみると3曲が約6分のメドレーになっている、、しかもこれ弾いているのは私〜?!!(びっくり)
私のCDから編集したのですね。大幅なカットがされていますが、そのつながりは自然で、素敵なメドレーに!
コンサートの前夜、ホテルの一室でディレクターさんのセンスとNHKの技術に驚いた私でした。
曲目はヴェルディ『凱旋行進曲』、『カヴァレリア・ルスティカーナ』から間奏曲、ワーグナー『ローエングリン』に決定。
自宅に帰り、CDを見てみると18年も前の録音でした。楽譜が見つかるか?!探しました、、ありました!
あの頃、気張って、『ローエングリン』はルメア編(←100年程前に世界的に活躍したコンサートオルガニストで、ヴィルトーゾな演奏家で超絶技巧の編曲を残している)
で弾いていた私、、、『カヴァレリア』はレコード会社の委託で編曲された、手書きの楽譜でした。
さて、これで演奏する曲は決定に。
その後、楽譜作成の方、舞台監督の方、プログラム作成の方、当日の時間チェックの方、ディレクターさん、
・・全て細かく役割が分担されているようで、数知れぬほどの多くの方から連絡をいただきました。
音源資料として、演奏会のCDが送られてきたことにも驚きました。私の演奏以外は、本番とは違う
演奏者ですが、スタッフのための資料なんでしょうね。
「ご衣裳はご相談させてください」・・・困った、“ご衣裳”と言っても、声楽の方のような華やかで豪華な
衣装ではなく、楽器の制約からパンツスタイル、色も私の好みはブラック。
数日後、「写真を送っていただけませんか」・・何を着ようか悩んだ末、結局選んだのは、
グレーのアルマーニのトップスに黒のパンツ。写真を撮って送りましたが、一向にお返事なし、、。
しばらくたって別件で電話が入ったので、衣装はいかがでしたか?と尋ねると「シックですね」・・いいのかな?
多くの連絡が交わされましたが、年が開け、元旦夕方5時、紅白歌合戦の撤収の後、私のリハーサルは始まりました。
狭いオルガンバルコニーにカメラが入るので、また絵的にも「出来ればアシスタントなしでお願いします」・・と。
NHKホールのオルガン(上の写真)はSchuke(ドイツ)の5段鍵盤91ストップの大オルガン、
編曲ものをアシスタントなしで、しかも短いリハーサル時間ですからそれは緊張した時間でした。
91ストップ、実は長い間、日本で最大のオルガンでしたが、名古屋の愛知芸術劇場に92ストップ、
1ストップ多い同じSchukeのオルガンが完成してから、2番目に大きなオルガンとなりました。
それにしも巨大な楽器。学生の頃は戸惑いましたが、今ではこのスケールの楽器にも慣れました。
ステージ上では大掛かりに舞台セットの準備も始められ、車が舞台を走っていたり。。クラシックカーも
セットのひとつでした。
帰り際、「最後のエンディング『乾杯の歌』の時には、ステージにお願いします」と。
え〜〜、横にいらしたディレクターさん「あれ、伝えていなかったの。。」
豪華で華やかな衣装の歌手に混じり、オルガニストの衣装では、、。日頃、オルガニストは遠い所で背中向き、
滅多に全身直立でステージに立つことはありません。それは大変〜〜。「しっかりカメラ割りも入っています」
・・そ、そ、そんな、、ありえないです!!。「わかりました、靴だけ(オルガンシューズではみっともないので・・)持ってきます」。
2日の夜8時、ホール入り。楽屋に案内されると、綺麗なプログラムの上にメッセージ・カードが添えられていて(上の写真です)、
何だかほっとする私。その後ヘアメイクの方と、当日のメイクについて打ち合わせをしました。そして
サウンドチェック。終わったのは夜9時。
車に乗り家へ帰ろうと思ったとき、やはり新年のニューイヤーコンサート、晴れの舞台のエンディングに黒のパンツでは・・
そうだ、やはりロングドレスに着替えよう、、と急に思い立ち、実家に置いてあるドレスを取りにと車を飛ばしました。
演奏会本番当日は12時にホールに入り、オルガンの音出し。その後、ヘアメイクのため、
舞台下、奈落にある暗くて細い通路を通ってホールの地下の「かつら部屋」へ案内される。
そこには鏡がずらりと並び、数名のヘアメイクさんがスタンバイしていました。
テレビ映りのためには陰影を出した方が良いと、しっかりメイク。付けまつげもお似合いになりそうですから、、と長〜いまつげも
付けてくださいました。歌手の方、バレエの方、、出番の時間に合わせ、ひっきりなしに大勢が入ってくるのですが、
発声をしている人も。お隣はバスの歌手の方でした。「髭をもう少し付けてください〜」と入ってくる方、オレンジ色の鬘を
かぶるダンサーの方々、、、それはそれは賑やかな舞台裏でした。
13:15〜本番の衣装、ヘアメイクをしてのランスルーが始まりました。「司会の武内陶子アナウンサーのコメント終わりで
演奏始めてくださいね」・・・(偶然ですが、私たち同じマンションに住んでいます)。
オルガンの横にはたくさんのカメラが設置されていますが、無人カメラ。演奏には全く差し障らず、集中出来ます、、
流石の技術ですね。
オルガン演奏後は、エンディングのためにドレスに着替え。またお迎えの方が来て、ステージ上手へ。
「井上さんは、最前列の一番右です」と並ばされる。え〜〜最前列ですか?!!そして
シャンパングラス(リハーサルでは水が入っていました)を2つ持たされるのです。「ひとつは
今、歌っている方に渡してください」「それから、『井上、答礼』と出たら、ご挨拶ください」・・「???」・・
オケピットの陰に、出演者用の電光掲示板があるのですね。
再び、オルガンの演奏用の衣装に着替え、
本番前にも再度ヘアメイク室へ。最終のメイクです。まさにオペラの出演者のような顔になっている私。
自分の顔でないみたい。。「綺麗に映っていましたよ」と。メイクさんもリハーサルをモニターでチェック
してくださっていたのです。背中と腕も映りますので、、と光沢の出るパウダーをパタパタと。
「お辞儀の時に髪が顔にかかっていました」・・と前髪を軽くスプレーでとめ、また本番直前には
オルガンの横まで来てくださり、最後の(メイクの)確認。
さて、いよいよ本番。暗転のうちにオルガンに着席。モーターをONにする。ふと気付くと
私の腕に腕時計〜〜、時計をはずすのを忘れた私。あわててはずし、鍵盤横の見えない所に隠す。
スポーットライトを浴びての演奏。4000名の会場は満席、全国放送の生番組、、、緊張した6分でした。
そしてロングドレスに着替えエンディング。ヘアメイクさんはステージ上でスタンバイ。本番はシャンパングラスには
シャンパンらしきものが入っていて、一口飲みました、、シャンパンではなく発泡性のジュース?・・でした。
ピンクのロングドレスは、ジュン・アシダ、以前CM撮影の時に、私が選んで買っていただいたもの。
とても私費では買えない高価なドレスです。忘れもしません、赤坂のお店で、あの頃の私の体型にぴったり合わせてお直しを。
着られるかな、と思ったら、今でもぴったりでした。滅多にないドレス姿〜。
本番終わり、帰途へ。運転中に電話・・・「NHKの○○です」。何が起こったのだろう、、と
不安に陥る私。「付けまつげ、取らずにお帰りになられたようで」・・「???」。
「メイク室にいらしていただけませんか」・・「?!!」
「すでに家に向かい、いま中目黒を走っています」
「そうですか〜〜、再度お電話します」。しばらくたってまた電話・・
「すみませんが、やはり返却していただきたいので、恐れ入りますが、後日で結構ですからNHKまでお送りいただけませんか」
「『プレリュード』はNHKでは『序奏』と訳す決まりです」・・などと、いろいろな決まりがあるNHK、
これも規則だったのでしょうね、知らずに帰ってきてしまった私、お送りしました。
こんなハプニングも含め、滅多に経験出来ないような、楽しい経験を沢山させていただき、明るく輝かしい1年の開幕でも
ありました。
私がオペラの作品を弾いたのは、レコード会社コロムビアのディレクターの勧めからでしたが、
この日に繋がりましたことを感謝します。これまでオルガンを弾いてきたことにも嬉しく感じた日でした。
テレビをご覧ただいた方々、オペラファンの皆様にもオルガンを聴いていただけましたこと、
オルガンの普及にも繋がったのではないかと、また滅多に見られないNHKホールのオルガンも知っていただけ、嬉しい機会でした。
お世話になりした多くのスタッフにも感謝致します。
Happy New Year!!
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