オルガニスト楽屋話

第195話 カスパリーニ・オルガン ---2016.2.12.

一年中で一番寒い時期を迎えていますが、寒さの中にも梅や寒桜が咲き始めました。 春の訪れ、自然の息吹が少しずつ感じられるのは嬉しいものですね。 寒い朝に、我が家の苺が実りました、なんとハート型!!可愛いいし、ずっとそのままにしておきたいけれど、 朝食にいただきました、甘いこと。
父が育てていた欄、数鉢。毎年4月の父の命日に花を咲かたのに、 咲かなくなったと言う母、きっと日当たりが良くないからと年末に我が家へ移動。 温室のように暖かな我が家が適していたのか、2月に真っ白な花が開花。清楚で綺麗です。
そして寒い冬、いま凝っているのがスープ作り。人参、かぼちゃ、ポテト、 オニオン、、茹でたり炒めたりしたお野菜をジューサーにかけ、クリーム・スープにします。 山梨(キングズウェル)へ出かけた際に新鮮で美味しい野菜で、野菜の味を生かした濃厚なスープ、体の芯まで温たまります。

さて、クリスマスや年末で書きそびれていましたオルガンの話をひとつ書かせていただきます。
昨年秋、コンクールの審査員でリトアニアのヴィリニュスを訪れた際に出会った、歴史的な貴重なオルガンです。 それは1776年に製作されたカスパリーニ(Adam Gottlob Casparini、1715-1788)の楽器。カスパリーニはドイツ人ですが、 17世紀ごろから代々オルガン製作家で、名オルガン製作家のつくった楽器はバッハやその後の時代の作曲家、音楽に 大きな影響を与え、深い関係にあると言えます。 約44台のオルガンを製作しましたが、そのほとんどが第ニ次世界大戦で壊され、 現存する世界で唯一のオルガン、しかも大規模なオルガンがヴィリニュスにあるということで、 コンクールの空き時間に審査員メンバーと一緒に見学させていただきました。 案内をしてくれたのはその教会のオルガニストと修復中のオルガンビルダーでした。

木や漆喰むき出しで、土埃の通路を通り、私たちはオルガンの裏部屋へと案内されました。長い間、使われていない、 修繕もされていない状態です。 そこには、壊れた木製、金属製パイプが積み上げられ、それらは当時(1770年代)の ままだと。一部の整っているパイプは、手に取り、息を吹き込み、音を出すことも出来ました。250年前に名オルガン製作家の手によって 製作された音です!
そして私たちは修復中のオルガンの中を通って演奏台へと案内されました。 オルガンケース正面には、「カスパリーニ」、「1776年」と刻まれ、そこにしっかりとカスパリーニ・オルガンが残っている事実を確認することが 出来ました。 椅子、ペダル鍵盤は当時のまま。古い形のストップ・ノブ。鍵盤は新しく修復し、幾つかの手鍵盤のストップだけ音が鳴らすことが出来、 少しですが音色も聴き、弾くことが出来ました。
2000年に始まった修復ですが、250年の年月を生き抜いてきた貴重な楽器の保存には、まだまだ時間と費用がかかるそうです。 世界中の著名なオルガン製作家、オルガニストの研究と知恵を集め、現存する唯一のカスパリーニ・オルガン、 貴重な歴史的な(大きな)楽器の修復プロジェクトが進行中です。 この文化遺産、いつの日にか完成する日が楽しみです。

長い歴史の中で生まれ育まれてきたオルガン。ヨーロッパに行くとこのように古い楽器が残っており、 実際に聴くこと、弾くことも出来るわけです。

所属する教会礼拝堂解体中の今、私は大学、学校、ホール・・色々なオルガンで練習させていただいています、 それも幸せなことで、1段鍵盤から3段鍵盤まで大きさ、様式の違う楽器を弾くことから学ばされることが多いです。 日々、いろいろな場所へ出かけて行きますが、「君はよく来るね〜」(私:うふふ・・)と某大学の守衛さんは鍵を渡してくれます。
「鍵」はオルガニストに付き物でして、鍵を渡す時に「Guten Tag!(こんにちは)」と言って手を握ったまま離してくれない神父さん、 ベルを押すといつもお菓子を焼く甘い香りがした牧師館、、“鍵”にまつわる思い出はいっぱいで、ドイツ時代を思い出します。

オルガニストはこれから演奏する、コンサートで弾く楽器に合わせたプログラミング(選曲)をします、 これから演奏する楽器に思いを寄せ準備する・・・オルガンならではですね。今は近々誕生するイギリスの ロマン派のオルガンに心を寄せ、滅多に弾くことがないイギリスのレパートリーなどを探し、弾き、楽しい時。 そして残響の長いカテドラル、ホールのオルガン。フランス、ドイツのオルガン・・・などなど、これから弾く楽器に 思いを寄せながらオルガンを弾き音楽と共に過ごし、暖かな春が待ち遠しい今日この頃です。


Index