オルガニスト楽屋話

第201話 ドイツへの演奏旅行〜その2 ---2016.8.14.

レータ村でジルバーマン・オルガンを弾かせていただいた後、次の演奏会の地 Polditz ポルディッツへ。 レータから約70キロ、再びカーナビに入れる。主催者御夫妻とは午後7時頃教会の前で待ち合わせ。 近くに来たら電話をする約束になっている。アウトバーンの後、一般道に。道はとうもろこし、麦畑が続く のどかな田園風景に。その中に、村が点在している。なるほど、教会の塔はどこからでも見え、わかります。 目的地、ポルディッツ、ラーデガスト・オルガンのある教会前に約束の午後7時少し前に到着。電話をすると 主催者の御夫妻が車で飛んできてくれました。

「僕らの車についてきてい下さい」・・そして6日間宿泊する隣村 Muschau ムッシャウへと。 何度もメールで尋ねたのですが、「宿泊はこちらで 準備します、ご心配なく」・・という返事のみ。ホテルやペンションなのか、個人のお宅なのか、一切わからずわからずやってきた この地。案内されたのは大きなお家。「どうぞ、こちらへ。これが玄関の鍵です。」

ムッシャウは人口50人の小さな村、周囲は北海道にも似た、広大な原野に囲まれ、静かでのどかな村、緑に囲まれ空気は良く爽やか。 村の周囲には牛、馬、ヤギ、そして村の人々は自宅で鶏、あひるを飼っていました。アヒルは食用とのこと、そして毎朝とれたての 卵を届けてくれ、東京で食べる黄色い黄身の卵と違う美味しい卵で、ここでの“静けさ”の中での6日間、美しいオルガンが 弾けただけでなく、心身ともにリフレッシュ。
主催者の彼らも、大きな街での生活から、この静かな村が気に入り、ここへ転居してきたと。泊めていただいたお家は、主催者さんのご自宅のお隣で、 ライプチヒに住む歯医者さんの週末の家(別荘)とのこと、100年以上経つ古い家を綺麗で居心地良い家に改装し、お庭には育てている草木、 りんごやぶどうも実をつけ、自然の中での生活を楽しんでいる様子が伺えました。

さて、演奏会で弾いたラーデガスト・オルガンですが、レータで弾いたジルバーマン・オルガンの後の時代、19世紀後半、 最も優れた製作家で、ロマン派様式の素晴らしいオルガンを残しています。これまでラーデガストを弾いたことがありますが、 ポルディッツのラーデガスト・オルガンはほかのラーデガストとも違い、メカニカル・アクション(オリジナルだそうです)で、繊細なタッチ、美しく歌うオルガンで、 ベルリンに続きそれは楽しい時間を過ごすことが出来ました。ここでも教会の扉と牧師館(トイレのため・・)の鍵を渡され、 演奏会まで好きなだけ弾いてください、、と。この静かでのどかな自然に囲まれた所に、大きなラーデガストのオルガンがあるとは、驚きです。 宿泊した隣村とは車で5分、毎日田舎の道を通いました。レンタカーは ここでも活躍。車以外のアクセスは無理で、美しく静かな環境で好きな時に好きなだけオルガンに迎えた、最高の日々でした。

途中、村の人たちが犬を連れて散歩していたり、車同士ですれ違ったり。みな、にっこりと手をあげて挨拶をするのですが、 東洋人の私が運転するのを見てびっくりの表情。隣町(このあたりでは大きな街、Leisnig )のカフェでお茶をしたり、 マーケットで買い物をしていると、、東洋人の姿は珍しかったようで驚いている様子が伺えました(笑)。

繊細なタッチでのラーデガストでは、バッハなどバロック作品2曲のほか、ドイツ・ロマン派の作品を中心に演奏しました。 シューマン、メンデルスゾーン・・これまで様々なオルガンで弾いてきましたが、ああこうした音、響きでこういう音楽なんだ、、、と 楽器から沢山のことを学ばされました。

新聞社の取材も入り、記事が地元の新聞に出たせいか、いらしてくださったお客様の数はいつもより多かったそうです。 演奏会前にまず前方で挨拶をすることに(恒例だそうで・・)(上の写真)。そして演奏後にまたバルコニーから下へ・・ いただいたのはお花ではなく、灯されたロウソクと蜂蜜でした。嬉しかったです!!ロウソクは石の蝋燭台の中にあり、 下には「Polditzer Orgeleigen 04.08.2016 Vielen Dank」とポルディッツの地名と、日付、そしてありがとう、との刻印が刻まれ、大切な思い出に、、こちらこそ、ありがとう!!。 蜂蜜は近くの村で採れたものだと(右の写真)。

主催者御夫妻は、演奏会でお世話になっただけでなく、毎晩、ザクセン地方を案内してくださいました。 ある日は、せせらぎが聞こえる緑囲まれたレストランで美味しいザクセン料理を。 またある日は、ザクセン・ワインシュトラッセ(通り)、ザクセンはドイツで最も北にあるワインの名産地だそうで、 日当たり良く傾斜のある斜面にワイン畑が続き、シャトーがあるワイン農家が連なる地方を案内してくださり、 見晴らしのよいワイン畑の中を散策し、ワイン生産家でワインを試飲し購入、その地のワインを飲ませてくれる 美味しいレストランへ案内してくださったり。一度は、ドレスデンへも行きましょう!と車で1時間だからと、 夕食を食べにドレスデンへも。アウトバーンを190キロで飛ばすのですから、それは速いです。

ポルディッツの演奏の翌日は、次の演奏会場である Colditz コルディッツへ。約50キロ、30分。 演奏会のある教会へ行くと、オルガニストさんが調律中。昼食を食べ、午後1時半からリハーサル開始。 ここのオルガンもロマン派の楽器。演奏台は複雑で、日本にはない古いシステム。スウェル・ペダル(スウェルの 箱のシャッターの開け閉めをする)も通常の逆。ヨーロッパではよくこうした楽器に出会うものの、 翌日のコンサートに間に合わせるために、楽器に慣れるのに時間がかかり、リハーサルが終わったのは夜7時過ぎ。 大変でした。街中に貼られたポスター、演奏会前にはオルガニストさん宅での昼食に招待され、 暖かい人々に接することが出来た3つめの演奏会でした。

今回、ライプチヒとドレスデンの間の地方、での2つの演奏会でしたが、その距離感というのは グーグルで地図を見ていたのではわかりませんでした。実際、アウトバーンを飛ばせば、ライプチへは 30分、ドレスデンへは1時間、意外に近いのです。車があれば、行きたい街にも立ち寄れる。ナビも優秀。
そんな中、地図を見ていて目に留まったのが「アルテンブルク」。オルガンの本でよく目にするトロスト・オルガン、 バッハも弾いたオルガンのある街。ネットで情報を調べ、オルガニストさん(Dr.でした)に恐る恐るメールを出してみると、 翌朝に「どうぞお弾きください。手配をしておきますから窓口へ直接。」と。信じられないようなお返事。 2日前の連絡、しかも(私に都合の良い、というか、その時間しかなかったのですが・・) 日曜日の午前中に弾かせてくださると。そこは日曜日の礼拝はない、お城の中のカペレでした。

アルテンブルク、ナビはお城の下の駐車場まで案内してくれました。途中、「バッハもこの地を訪れ、オルガンを 弾きました」という刻印を見ながらお城までの急坂を登り、 お城見学の窓口へ行くと、日本から来るKeiko Inoue がオルガンを弾く許可の書類がきちんと準備されていました。 鍵を渡され、礼拝堂へ案内されると、それは美しいカペレ、見事なステンドグラス、そして思ったよりも狭いスペースに 大きなオルガンのパイプ郡が覆い被さるかのように。これが、トルスト・オルガン!!感激する私。

そして演奏台へ。美しく包み込まれるような音色に感動。どのストップも見事、素晴らしいオルガン!! 北ドイツのオルガンのような鋭い音色や、強いリードはなく、優しい音色、鍵盤などは綺麗に修復され、とても弾きやすく、 それは夢心地の感動の時間でした。百聞は一見にしかず。折しも、8月7日、私の誕生日。最高のプレゼントを与えていただきました。

そしてライプチヒへ戻り、1週間私の旅の大切な足であったレンタカーを無事返却。思いもせぬ所へ行けたのも、 この車のお陰でした。そして2日、ライプチヒで最後のドイツを楽しみ、 列車ICEで、フランクフルト空港へ。今回の旅で始めて乗る鉄道にもウキウキ。 途中バッハが生まれた街、アイゼナハも通り、バッハの歩いた道を辿りながら帰途につきました。

今回の旅、幾つもの歴史的な楽器、美しい楽器を弾くことが出来ました。弾かせていただいたオルガンから得たものは大きく、 大きな糧に。その音色、そこで奏でられた音楽をしっかり体に染みこませてきました。ドイツ留学時代とも違ったドイツを体験し、 再び学び、旅で得た収穫を糧にまた日本でオルガンに向かっていきたいと思います。

旅の写真を写真の ページにアップしましたので合わせてご覧ください。


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