オルガニスト楽屋話

第217話 まさかのハプニング@ドレスデン、聖母教会での演奏会 ---2018.8.25.

エルベ川沿いにあり、沢山の文化遺産が残る歴史的な街、ドレスデン。その旧市街中央広場に建つ聖母教会。 以前(2001年)に訪ねた時は、瓦礫の山でしたが、再建され15年ほど前に完成。ドレスデンはドイツで一番人気の観光地であり、 その中央に建つ聖母教会はドイツ人が涙する教会であり、教会前には聖書を持って立っているルター像が立つ、プロテスタント教会です。(写真、左下)

スロヴァキアから列車で約7時間、ドイツ・ドレスデンに入り、初日は中央広場に面したアパートメントホテルに。 窓を開けると聖母教会が目に前に。教会の鐘の音を聴きながら、 一晩過ごし、翌日からは教会が準備してくださったゲストハウスに。多くの観光客が訪れるこの教会。リハーサルは早朝、朝10時までか、夜19:00以降。 歩いて5分の宿舎から、朝に晩にと教会へ。渡された鍵で教会へ入り、夜はオルガンの明かりのみ。真っ暗闇の中での練習時間。

(右の写真は、演奏会で拍手を受けている私。オルガン前、中央からやや左側に立っている、米粒状の小さな私をご覧いただけますでしょうか。)

余談ですが、必需品は懐中電灯。暗闇の教会から帰る時、階段があり、明かりなしでは危険がいっぱい。そして役に立ったのは、 日本から持参したベープのスプレー式虫除け。スロヴァキアでもドイツでも、夜間、広い教会内オルガン明かりだけになると、 虫が飛んで来ることも。実は今年の夏はヨーロッパも猛暑と聞き、エアコンがない所、夜窓を開けて眠ることもあるかと、虫が入ってきたら、、 と心配して、初めて買ったみたものでした。

スロヴァキアからドイツ、ドレスデンへ入った日から、気温も下がり、いつものヨーロッパの気候に。カラッとした晴天。 しかしながら暑く雨が降らない日が続いたそうで、エルベ川の水はいつもよりずっと少なく、水深50センチ、歩いて渡れると(笑)。 グリーンのはずの芝生は茶色に。枯れている樹木も。5回目のドレスデンでしたが、全く違うエルベ川沿いの景色でした。

さて、演奏した楽器は、ケルンが2005年に製作した4段鍵盤とペダル、69ストップの大オルガン。教会の正面上方に鎮座していますオルガン、 第二次世界大戦で壊されてしまう以前は、ジルバーマン・オルガンがあり、様々な反論もあったそうですが、いまはフランスのオルガンに。 ケルンのオルガンは札幌キタラコンサートホール、新宿文化センター、教会など日本でもお馴染みのビルダー、またベルリンのマリア教会にも 美しい楽器があり、私も各所で弾いてきましたが、なるほど!美しいケルンの楽器です。フランスのオルガンですから、 沢山のリード管、コルネがあり、念入りな音作り(レジストレーション)、丁寧によく考え聴きながら、楽器に適し、美しく響く、身魂の音色を決定。

演奏会の日も朝8時に教会へ。私の練習後、深夜に調律したビルダーが、また朝も再確認に来ていました。教会が一般公開される 朝10時までリハーサル。南ドイツから遠路はるばる聴きに来てくれたオルガンビルダー夫妻とランチをし、午後は疲れないように簡単に 音色の再確認だけ、、と思いオルガンの所へ(下の写真は、その後大変なことが起こるとは思いもせず、友人たちとランチを楽しむ私、、。)
するとアシスタントオルガニストから「このUSBメモリースティックにあなたのコンビネーションを 入力しました」というメモ書き。私はメインオルガニストから、このコードでアクセスすればゲスト用の番号になり、 そこを使うようにと最初に言われた通りに使っていたのに、、、と半分不満になりつつも、メモリースティックをオルガンに入れ、指示されたように2回赤いボタンを押す、、、、 しかしながら、私の入力した音は出てこない!?!?慌ててアシスタントに電話。

解決出来ず、その日ハンブルクで演奏会というメインオルガニストにもヘルプの電話。電源を切るなど、ありとあらゆる方法を試したのですが、 ダメ。消えてしまった〜!!ありえない、信じられないような出来事!2日をかけて考えたものがコンサート前に全て消えてしまった、、。 大泣きしたい気分。疲労も蓄積、演奏当日、演奏前は体を休めたい、と思っていた矢先に。

気を取り戻し、再入力。演奏しながら音作りし、さらには通して演奏してみないことには、アシスタントなしで弾く私には不安。 約3時間かけて再入力。精神的にも体力的にもストレスとで疲労の限界に。

果たして演奏出来るかと不安の中で迎えた演奏会。ハンブルクにいるメインオルガニストから陳謝と応援のメール、 そして気を取り戻し、演奏会。美しく弾きやすいオルガンだったのが救いで、私としては納得出来る演奏が、 しかも緊張に駆られることもなく、疲れも感じることなく、自分の演奏を発揮し、音楽を楽しむことが出来ました。 神様から、あるいはどなたからの力でしょうか、不思議な位でした。アシスタントオルガニストはその後、 私の前に姿も現さず、サインした契約書もオルガンの所に放置されたままに。

色んなアクシデントもあるオルガンの世界です。私のコンサートでは2回目。横浜のホールで、これもやはり アシスタントオルガニストが、入力したコンビネーションを誤って消してしまいました。ただ、 オーケストラの演奏前に2曲演奏、しかも演奏会当日ではなく、バロックのもの、再入力は簡単でした。 最近では、私のコンサートではありませんが、武蔵野のホールで、演奏前にビルダーが調整して、謝って消してしまったという アクシデント。客入れを1時間遅らし、二人のアシスタントを付けての異例のコンサートに。

しかし、今回は、フルのコンサート、アシスタントもなし。普通だったら投げ出しそうな 、泣きたくなるほど大変で大きなアクシデントもありましたが、何とか演奏出来。2年前に演奏したライプツィヒ近郊のオルガニスト夫妻も演奏会に。 遠路はるばる留学時代の友人やお世話になった方々、嬉しい再会、出会いもあったドレスデンでした。

そして4年前、私の企画のドイツオルガンツアーでもドレスデンを訪れいて、街の中で、エルベ川沿で、レストラン、空港、、思い出があり、 参加者の皆さまの顔が浮かんできました。まさかあの時、このような機会があるとは思ってもいなかった私、様々な思い出のあるドレスデンで、感謝と喜びに満ちた時間でした。

16歳の時渡米し、海外へ出ることを望んだ私。留学を終え、日本に帰る日、フライブルクからフランクフルトまでの列車の中、 ずっと泣いていた私、そしてまた戻ってきたいと切望した私。その間の日本での活動により様々な演奏の機会、多くの楽器に触れる機会を通して学ばされ、 そして今、こうした身に余るようなチャンスを与えられ、自分の人生を振り返りながら、頑張ってくれた私でないような私がいて、、自分にお疲れ様! 演奏会の翌朝6時半にタクシーを頼み、思い出いっぱいの街ドレスデンに別れを告げ、空港へ向かった私は、マイレッジでビジネスクラスへアップグレード。 機内で自分で自分に密かに乾杯しながら帰途に着きました。

演奏会場、街の様子を写真の ページにアップしましたので合わせてご覧いただけましたら嬉しいです。





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