オルガニスト楽屋話

第23話 喜びの時も、悲しみの時も ---1998.11.23.

人々の喜び、また悲しみの時に立ち合う楽器・・・それはオルガンです。 恐らく、ほかのどんな楽器にも代用することは出来ないと思います。

私は教会でオルガニストも務めていますが、 クリスマスやイースターには、高らかに歌われる讃美の声を支え、 喜びをともに祝います。 人生の新しい門出を祝う結婚式には祝福を与え、永遠の別れという 深い悲しみの葬儀の時には、人々の心を慰めてくれます。

よく取材などで、”オルガンの魅力は?”と尋ねられます。私はその一つとして ”人の息使いにも似て、とても人間的な音がすると思うのです”と答えますが、 オルガンの音は誰もの心の奥底深くまで染み込み、語りかけてくれます。

ヨーロッパの教会を訪ねますと、16、17世紀の歴史的な古い楽器にも 出会うことがあります。 それぞれの楽器は、当時のオルガン建造家の熱い思いが込められて製作されたもの。 それらの楽器は300年もの時間が経ちながらも、修復を重ね、大切に保存され、 今なお美しい音を奏でているのです。 その間には、この楽器が数知れぬ程の人々と関わり合い、多くの人々に、 感動を与えただけでなく、喜びや悲しみにも立ち合い、 人々の生活に溶け込んだ楽器として存在してきたのです。

私がオルガニストであり、またクリスチャンであるから、何か特別に聞こえて くるのでしょうか。 いや、そうではなく、宗教や時代を越えて、オルガンの音は人々の心の中に 優しく語り、響くものと思うのです。こうした楽器が私に与えられている限り、 暖かいメッセージを届けていきたいものです。

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