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オルガニスト楽屋話

第250話  寒い冬に ---2023.2.14.

お寒い冬を迎えております。今年は大雪が降っている地域もあったり、低温注意報が出たり、厳しい寒さです。教会で練習する時間が長い私たちオルガニストにとって、 まさに「寒稽古」です。でも私が最も寒い経験をしたのは、留学時代のドイツの冬でした。

左の写真はネット上で見つけた写真ですが(当時、余りに頻繁に通っていたので、特に写真も撮ることがなく帰国してしまいました)、 約3年過ごしたフライブルクの郊外、Kirchhofenキルヒホーヘンという小さな村の教会です。中央駅から郊外へ向かうバスに乗り約30分の所にある この教会で、練習していました。オルガンバルコニーに上る螺旋階段の扉の鍵をいただいていて、平日は自由に練習させていただき、美しいオルガンで、週に2,3回通っていた思い出多き教会です。

冬の教会、寒かったです。日曜日は暖房を付けるので、週の初め、月曜日、火曜日あたりは温もりも残っているのですが、金曜日にもなると息が白いこともありました。 雪が積もっている日もあり、練習を終え、バス停でバスを待つ。1時間に1本か2本のバスですから、ドイツのバスは定刻で走りますが、それでも少し早めに行ってバス停で待ちます。 雪の上、つま先が冷たくて、踵で立って待っていたこともありましした。もちろん現地で買った中に毛が付いた防寒ブーツですが、それでも凍えました。そしてある寒い冬の日、 夕方もう暗くなった街に戻り、路面電車の乗り換え地点、同時期に勉強していたオルガニストの松居直美さんと遭遇し、「寒いね」、笑う頬が本当に凍りそうでこの一言だけ、お喋りも出来なかった。 その時、街角の温度計は−20度を指していました。

いま考えれば、魔法瓶を買って、暖かい飲み物でも持って練習に行けば良かったのですが、その時は、バス停を降りた所の小さなマーケットで買う、オレンジジュースとパンで、一日中、教会に籠り練習していた訳ですから、 若かったです。





さて、一昨日は川口リリアホールで、企画と監修をさせていただいています「ワンコイン・オルガンコンサート」。冒頭のトーク出演ですが、今年初めて、そしてバレンタイン・デーも近いので 赤のドレスにしました。いつもパンツスタイルでオルガンを弾く私たちにとって、滅多ないドレス姿。楽屋で自撮り。

5分の短い出演後、急いで着替え、会場の一番後ろの席にそっと滑り込む。するとホールの中は、補助椅子が出ているほどの満席状態(写真下)。 オルガンに耳を傾けてくださる大勢のお客様の後姿を見て、涙しそうになりました。コロナ禍で制限された日々がようやく落ち着き、お客様が戻ってきたようです。
当日券が150枚売れたのも新記録だったそうで、いつも熱意を持って支えてくださるスタッフの皆様にも感謝です。

没頭し夢中になりオルガンと共に走ってきた私の人生、寒いドイツの冬も苦に感じなかったし、私にとってオルガンはそのくらい大好きな楽器ですが、 こんなに多くの人が聴いてくださるとは、、、今こうした仕事が与えられていることに、感謝の気持ちに溢れました。

同じオルガンですが、演奏者によって全然違う音が出てきます。企画をしていて痛感します。これも楽しい。弾いている人が、どんな楽器を弾いているか、 どんな楽器をこれまで弾いてきたか、音に出てきます。今回の川越聡子さんの演奏からは、フランスのオルガンの音が聴こえてきました。





リリアホールは、2024年春から大規模な修復工事に入りしばらく閉館しますが、来年度3回の「ワンコイン・コンサート」(2023年9月9日、11月18日、2024年2月17日)、そして 6月3日(土)には、恩師サットマリー先生との演奏会も予定されています。是非皆様のご来場をお待ちしています。

3月から、マスクも外せるような日常が戻ってくるかもしれません。少しずつ元の日常に戻りつつあるいま、明るい春の到来も近いです。






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