オルガニスト楽屋話

第39話 まさか、の転倒 ---2000.7.12.

演奏家にとって怖いのが病気と怪我。どんなに準備を重ねても、本番当日に演奏できない状態では はじまらないし、関係者にも大きな迷惑をかけてしまう。病気と怪我は絶対に避けたいものです。 旅先では、気候や環境が変るし、演奏家はタフでなくてはなりません。 自分の体を楽器とする声楽家は、さぞかし大変なことでしょう。

”鍵盤楽器を弾く人は、台所で包丁など持たないんでしょ”などと思う方も多いようですが、 私の場合、普通のことはぜんぜん大丈夫、やっています。 でももちろん怪我をしないよう細心の注意はしています。さすがに 切ることを放棄しなければならないお野菜はあります。たとえば”かぼちゃ”です。 最後の端っこの方を、もったいないと思いつつも、ごめんなさい、 怪我をするよりはと少し捨ててしまうこともあります。

足にも注意しなくてはならないのが、オルガニストかもしれません。 骨折や捻挫をしても弾けなくなってしまう。ですから階段などは急がず慎重に歩き、充分注意していたはずでした。 なのに・・ 先日、ズボンの裾が足にひっかかり、頭から前のめりに転倒するというハプニング。 ”まずい!どうしよう”と思った瞬間、でんぐり返しのように体を丸めたのですが、 これがコロコロとまらない・・下までころがってしまったのです。 天井と階段が目の前をグルグル回りました。日曜日の午後、教会の階段での出来事でしたが、 幸いにも、頭にこぶと、体のあちこちに傷と内出血をつくっただけで、大事にいたらずにすみました。

考えてみると、オルガンは高い位置にあることが多く、オルガニストにとって階段はつき物かもしれません。 ヨーロッパの大きな教会では、オルガンの所まで相当の数の階段を登らなくてはならず、 着いた時には息も荒く・・ということも珍しくありません。それも急で、狭く、暗く、ら旋形に近い階段だったり。 ”この階段を登れる限り、オルガンを弾くよ”と言っていたオルガニストもいます。

スイスのシオンに”現存する最古のオルガン”がありますが、この教会も丘の頂上にあり、まずは結構急な坂道を徒歩で登らなくてはなりません。 ようやく教会に着いたと一息。”つばめの巣”という愛称のこのオルガンは、壁にはりついているかのようですが、今度はオルガンまでまた階段です。

オルガンの中にも手すりや階段があります。これは組み立ての時、そして その後の調律やメンテナンスの時にパイプの近くまで行くためです。 楽器の中に階段があるというのも、オルガンだけでしょう。

日本のホールでも、オルガンはステージより高い所に設置されていることが多く、また演奏台までたどり着くには 変な所から入ることも(オルガンの中からとか・・)あります。 ”カーテンコールでステージで挨拶をして欲しい”・・などと言われると、さあ、急げ・・実は裏の階段を駆け降りていたりするのです。

今回の出来事で、階段は手すりを使って・・が鉄則となりました。階段は案外危ないものです。皆様もお気を付けください。 でも今回無事ころがった抱えのポーズは、プールでのクイックターンの練習の賜物だったかもしれません。 腕のあざも2週間で回復、今日の演奏会ではノンスリーブも着れるまでに・・よかった。

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