オルガニスト楽屋話

第52話 シェイプアップ! ---2001.12.2.

音は消えてしまうけれども、ひとつひとつの演奏会は、私の 全エネルギーをぶつけた凝縮した時間であり、私の中に 何かを残しながら過ぎていきます。 先月のオーケストラとのコンサートに続き、石川県立音楽堂で 演奏するのは2回目でしたが、前日からリハーサルに入ると、どんどん オルガンと心が通い合うようになりました。そして本番では、 思いのままを表現してくれるオルガンとともに、私の音楽を創り出せた・・ そんな感じでした。自分の楽器を持ち歩けないオルガニストにとって、 短いリハーサル時間に楽器と一体となれることがとても肝心ですが、 金沢のオルガンは私の気持ちに答えてくれる楽器でした。

演奏会の翌日、夕方の飛行機の時間まで、兼六園と金沢の街を 散策。すでに終わりと思っていた紅葉も真っ盛り、空も澄み切った青空で 何だか得をした気分。そして江戸時代からの建物をお店にしている 「寿屋」で、加賀料理をいただきました。漆塗りの美しい器にのった、 手のこもったお料理が次々と運ばれてきます。厳選された素材、 そしてその味をいかしたお味、精進料理がこんなに美味しいものとは これまで知りませんでした。和室で御膳でいただく姿勢は、座ることが 苦手な私にはちょっと辛かったものの、これも日本の文化ですね、 晩秋の一日、「日本の美」を満喫しました。


演奏会の後というのは、緊張から開放され心地良いものですが、 ほのかな疲れも残ります。これは精神的、肉体的な疲れでもありますが、 「気」のようなパワーが発散される、その疲れかもしれません。けれども こうした日に、静かな古都を散策するのはうってつけ。いつも音との 生活をしていると、たまには落ち葉の音などに耳を傾けながら ウォーキングするのも気持ち良いものです。

ウォーキングと言えば、最近、体を動かすことが楽しい私。 スポーツクラブでストレッチングや簡単な 筋力トレーニングなどを始めたのがきっかけですが、これまで眠っていた 筋肉が少しずつ目覚めてきた感じです。毎回筋肉痛を繰り返して いますが、オルガンを弾く姿勢を長く続けていること、そしてこれまで 運動不足でかたよった筋肉しか使っていなかった証拠ですね。でも そのお陰で体を軽く動かせるようになり、階段もスイスイ。お掃除したり、 重い荷物を持ったりという日頃の億劫なことも、体が軽やかに動くと 楽なものです。どこへ行くのも車の私が、最近は近くの買い物などは マウンテンバイクで。ちょっとした段差ならポンと乗り上げられるので、 街で乗るにも快適。そのうち多摩川のサイクリングロードでも 探検してみようかな。そして相変わらず週に2,3回はプールで、 体を思いっきり伸ばし泳いでいます。


こうして体をほぐし、オルガンに向かうと、鍵盤に気持ちよく指が入ること! 体のメンテナンスも大事なことがわかります。とくに全身を使って演奏する オルガニストには不可欠ですね。また演奏家は、体で音楽を感じ、 研ぎ澄まされたリズム感を体のどこかに備えもっているいることが大切。 リスムを敏感に捉えられる運動神経も必要だと思います。 豊かな音楽性、それを的確に表現するにはテクニックは不可欠ですが、 さらにはそのテクニックを自在にあやつれるようなコンディションに体を してあげたいもの。体のすみずみまで元気になれて、音楽が楽しくできて、 それでまた元気になれたら、これが一番!私流、シェイプアップです。



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