オルガニスト楽屋話

第57話 オルガンは生きている ---2002.5.12.

福岡での演奏会を終え、東京へ戻る飛行機の中でこの メッセージを書いています。昨年はホテル日航福岡のチャペルにある ケルン・オルガンで演奏しましたが、あれから丁度1年、 再び「明るい街」福岡を訪れることが出来ました。

今回は西南学院大学での演奏会、ここには日本を代表するオルガン ビルダーの一人、辻宏さんが製作された33ストップ(3段鍵盤とペダル)の 楽器があります。アクションはすべてメカニックという古典的なスタイルの オルガンで、鍵盤から笛へのコンタクトはとても敏感です。 「風を送り、笛を鳴らしている」ことを感じながら演奏できる 楽器でした。

オルガンの歴史は長いので、様式も時代により様々です。 演奏は、個々の楽器にふさわしいものでなくてはなりません。 今回のような古典的な楽器で演奏する時は、とりわけ オルガンの呼吸に合った息使いで演奏することが求められます。

美しく笛を歌わし、さらには、この息使いにあわせて自分の音楽を 表現する・・・ここに演奏の真価が現れてくるのでしょう。 一方的な自己主張は、こうした楽器は受け入れてくれません。だからと言って 楽器に身を任せているだけでは、弾かされるような演奏になってしまいます。 一方、モダンな楽器、とりわけコンサートホールなどでの演奏には、 大勢の聴衆に意思が伝達されるよう、積極的な音楽表現が要求されます。

モダンな楽器と古典的な楽器では、鍵盤の大きさやペダルの形などにも 差異があり、同じ奏法では弾けなかったり、弾きにくいところが出てきたりします。 けれども、もっと重要で難しいことは、それぞれの楽器に適した表現法で 演奏すること、つまり楽器によって弾きわけることでしょう。

風が自然に笛に送られるような演奏のために、また構造上の理由(例えば鍵盤の 戻りが遅い・・など)から、選ぶテンポも変わってきたりもします。 楽器ひとつひとつにふさわしい奏法やテンポがあるのですね。 開場ぎりぎりまで、その作品に最も合った演奏を模索しながら、 オルガンとの対話を繰り返し、演奏会を迎えました。 こうした楽器は音楽を奏でる「機械」や「道具」 という域を越え、まさに「生き物」のよう。オルガンは生きている!と思わされま した。

この地にもオルガンを愛し大切にしている、暖かい人々の輪がありました。また 食いしん坊な私は、新鮮な素材を活かした美味しいお味を大いに堪能。 そしてそして呼吸をしているような、生きたオルガンと出会った、福岡への 演奏旅行でした。



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