オルガニスト楽屋話

第64話 オルガニストという人種 ---2003.7.28.

ヴァイオリンの「天才少女」のような存在は、オルガン界では 聞きません。それは、ある程度、体が成長しないと楽器が弾けないこと、 それから単に技術を習得しても演奏できる訳ではなく、 楽器の構造、歴史など総合的な知識が必要とされるからでしょう。

いずみホールのサイト「オルガンQ&A」コーナーで、 毎月ご質問にお答えしていますが、日常弾いている楽器にもかかわらず、 言葉で説明しようとすると、意外に難しいものです。 それは数百年という長い歴史を持つ楽器なので、時代、風土により様式は 多種多様、その上、楽器一台一台オーダーメイドなので、 系統立てて解説するのが困難な訳なのです。

「オルガンとの出会いは?」・・取材などの折、よく聞かれる質問です。 キリスト教と深い関係がある楽器だけに、私の場合もそうですが、教会や ミッションスクールでオルガンと出会うケースが多いです。キリスト教とは 無関係に演奏活動をしているオルガニストもいますが、大半は教会オルガニストであり、 またクリスチャンです。教会の中の楽器という性格上、どちらかと言うと謙虚で 控えめな人が多く、華やかな声楽家、ヴァイオリニストやピアニストと比べると 地味かもしれません。ドイツでは親子代々オルガニスト、神父になるつもりが恋人が でき挫折しオルガニストに転向した・・・という例も聞かれます。

数学者、天文学者、あるいは医者でありオルガニスト・・・という例もよくあり、 理数系のタイプの人向きのようです。確かに難解なフ−ガやバッハの音楽に現れる 「象徴」など、数学的な要素は多分にあります。また演奏補助装置にコンピューターが 使われたり、自動演奏措置など現代的なシステムが導入されたり、楽器の構造に興味を 持ってオルガンを始めた、というようなメカ好きな人もいます。

7月27日、石川県立音楽堂にて
体全体、両手両足を使って弾く楽器だけに運動神経、リズム感、バランス感覚(椅子に座った時、 手足が宙に浮いた状態になる)など要求されます。ピアノのペダルの役目をする装置がないので、 レガート奏法はすべて指で音をつなげて弾かなくてはなりません。ですから、ある程度の大きさの 手(大きさよりも、手がよく広がることが重要ですが)も必要です。また大きなオルガンになると 鍵盤が5段という楽器もあるので、背丈も必要ですし、それからペダル鍵盤を演奏したり、 コンビネーションなどのノブを動かしたり足を使うことも多いので、足の長さも必要です。長すぎると 鍵盤にぶつかったり、からまったりするそうで(大きなドイツ人から聞いた話です)、適度な長さが良いようです。

演奏とは関係ありませんが、演奏するには足が自由に動き、鍵盤が見晴らせるパンツルックの方が便利なので、 もちろん人にもよりますが、パンツスタイルの女性が多いです。私もスカートを履くと「珍しいね」と言われたり、 ある時、人と待ち合わせしたのですが、スカート姿だったのでしばらく気が付かなかったと言われたこともあります。

ドイツでは大きな街の大聖堂のオルガニストは、市長に匹敵するほどの名誉職だそうです。 楽器の性格上から、ピアノやヴァイオリン、あるいはほかの楽器とは少し違ったバックグラウンドを持った奏者が多いです。 日本で日々オルガンと共に過ごしている私はやはり変わり者かなぁと思ったり・・・でも、これからもよろしくお願い致します。




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